気軽に呼んだわけじゃない 

救急車の話はまだ続く

 

正直、救急車を呼ぶのは慣れてない

果たしてこの痛みは救急車を呼んでいいものかどうか、自信がなかった

実際、過去に自分で救急車を呼んだことなど一度もない

でも、誰も相手にしてくれない現状で激痛を訴える娘を前に、しっかりしなくては、と自分を奮い立たせる

私は、自分で言うのもなんだが、チキンだ

歳ばかりとったけど、世間知らずで行き当たりばったりに生きてきたため、大人としての自信はさっぱりだ

だから、こういう緊急事態にどう対処するのかまったくもって自信がない

それでも思いついた病院に電話をし、万策尽きたわけだからもう救急車を呼んでもいいだろうと自分を励ました

思い切って119番

 

家の前のむちゃくちゃ狭い路地を、サイレンの音を響かせて救急車はすぐ来た

我が家はその狭い道をさらに左に曲がったつきあたりだから、中までは入ってこなかった

救急車までいくらか歩かなければならない

娘を迎えに行ったが、激痛で玄関で倒れこむようにうずくまってしまった

救急隊員の一人が鋭い声で「立って」「歩いて」と指図した

私は心の中で(こういう時、担架じゃないの?)と思った

倒れこんだ彼女を隊員は無理やり立ち上がらせようとした

立ち上がるとお腹に刺激がいくせいか拒否、そんな攻防を見かねた年上の

ガッチリした隊員さんが彼女を担ぎ上げおんぶしてくれた

されるがままに隊員さんによっかかりながら、救急車まで慌てていく

 

年齢とか名前とか聞かれたんだけど、鋭い隊員は娘の「腹痛」を馬鹿にしているようだった

ずっと痛みを訴えている彼女を冷たくあしらっているように感じた

触診の時も

(やはりあれか、女子は生理があるからそんな「腹痛」くらいで救急車を呼ぶなって思ってんのか)

「○○病院でいいですか」

それは、あの一度診てもらっている病院だった

「そこは前回、ちゃんと診てもらえなかったので避けたいです」私は言った

「救急車はタクシーじゃないので、希望の病院があるならご自分で行ってください」

救急車に乗り込んでるこの状況で奴は言った

「自分で行こうとしました でもどこの病院もやってくれなくて、しまいには歩けなくなったから救急車を呼んだんです」

チキンの私は言い返してた

(やることはやって呼んでいるんだ タクシー代わりにしているんじゃない)と自分に言い聞かせる

奴はだまって別の病院を伝えてきた

 

人間誰しも忙しかったりして機嫌の悪い時はある

その機嫌の悪い時にお客がきたら対応もまずくなる気持ちもわかる

それがたとえ救急救命士だったとしても

痛がって歩けなくなった患者に立って歩いて救急車まで行けと指示をしたことも

ずっと唸っている患者に腹痛くらいで呼ぶなという態度を示したことも

考えに考えてもう救急車しかないと呼んだ家族に自分で行けということも

人間だから仕方ない

 

チキンの私は悶々と心の中で思いながら、救命士に挨拶し病院に行った

自家用車のない我が家がタクシー代わりにしたんじゃないよな、と自問自答する部分もあって

弱っちーから救急車の中で怒ることもできなくて

 

救急の手続きが終わったのか奴は、最後に挨拶をしていった

調子のいい私も悶々としてるくせに、「お世話になりました」と挨拶した

娘の腹痛が仮病じゃないことがわかったのか、それとも機嫌が治ったのか、奴はいくらか丁寧だった

日常

Posted by ぷー子